人工知能 〜 機械学習は、どこまで信用できるか


提供: 有限会社 工房 知の匠

文責: 技術顧問 大場 充

公開: 2026年3月22日

あらまし

1943年、神経生理学者のマカロックと数学者のピッツは、脳内の神経の伝達をモデル化した、ニューロンシナップスから成る脳内神経ネットワーク・モデルを提案し、それが、コンピュータの論理回路のような働きをすることを示しました。人間の脳などでは、ニューロンと呼ばれる細胞同士が、シナップスと呼ばれる接続器官でつながっています。1つのニューロンには、多数の隣接するニューロンが、個々のニューロンから1本1本のシナップスを介して接続されています。あるニューロン活性状態にあるとき、その神経細胞(ニューロン)から伸びているシナップスは、接続していニューロンに活性化の信号を伝えます。このようにして、前段階のニューロンに接続したシナップスから得られる複数の信号を総合して、ニューロンは、活性状態にするかどうかを決めます。そのような何段もの層を重ねたニューロンが、多数つながってできたネットワークによって、人間の脳は働いていると考えました。

ニューロン・シナップス・モデルの提案


図13. ニューロン・シナップス・モデル

この多数のニューロンとシナップスが組み合わさってできる構造を、今日、我々はニューラル・ネットワークと呼びます。そのニューラル・ネットワークを利用して、人間の文字認識など、パターン認識の動作を真似る装置が作られました。その装置のことを「パーセプトロン」と言います。当初、パーセプトロンは、手書き文字の認識などに利用されていました。今の日本では、ごく普通になっている「郵便番号」の手描き文字認識装置などが有名です。パーセプトロンは、実際のパターン信号をパーセプトロンに入力して、パーセプトロンが認識した文字などの信号を人間が読み、パーセプトロンの認識正しいかどうかを、人間が判断します。もし、パーセプトロンの認識に誤りがあれば、ニューラル・ネットワークの接続構造を少し変えて、正しい認識をするように学習させます。具体的には、ニューロンに接続している個々のシナップスに割り当てている「重み」を少し増やしたり、減らしたりします。そのような学習を、人間の判断とパーセプトロンの計算結果が合うまで繰り返します。

このような学習を何回も繰り返すと、パーセプトロンの出力は、ほぼ、人間の判断同一の水準に近づきます。著者も、大学院の学生時代に、被験者の人間とジャンケンをする「5段」のパーセプトロンのシミュレータ・プログラムを作成してみました。このある被験者の「過去5回のシャンケンの手」を記憶して、被験者の次の手を予測するパーセプトロンの学習能力は、著者の想像を超えていて、数日で、異なる被験者たちの学生のパターンを学習し、被験者の学生には、「ほとんど負けない」パーセプトロンを作ることができました。パーセプトロンの学習は、人間の学習ほど複雑なプロセスではありませんが、人間のようには考えていないにもかかわらず、ジャンケンのような単純な作業の応用では、人間よりも強くなりました。

人間の場合を考えると、過去5回の相手の「手」を記憶して、次の自分の「手」を考える人はいないでしょう。多分、記憶するのは、2手から3手程度でしょう。その数手の記憶に基づいて、自分の次の手を考えるのは、人間の普通のやり方でしょう。その意味で、過去の5手を記憶して次の1手を決めると言う方法は、ある意味、「やり過ぎ」の方法とも言えます。普通であれば、もっとアルゴリズムに基づいた方法で、出すべき手を決めるでしょう。最初の1手は、相手がグーを出す確率が高いので、「パー」を出し、次の1手は、相手が最初に出した手とは異なる手で、自分の最初の手とも異なる手を選ぶなどです。このようなアルゴリズムに基づく方法は、記憶すべき手の数を減らす意味でも有効です。

パーセプトロンを使う方法は、記憶すべき過去の手の段数を増やせば増やすほど、勝ちやすいプログラムになります。ただし、ジャンケンのような単純なゲームでも、その成功率は、100パーセントには到達しないでしょう。人間との対戦ゲームであれば、90パーセントの成功率でも、十分に高い成績と言えるでしょう。しかし、機械系や自然現象を対象とするとき、90パーセントの成功率では、十分とは言えない場合も少なくありません。その意味では、確率的に生起する現象に対しては、ある程度、満足できる結果が得られるかもしれませんが、それで「十分である」と言える水準に達するとは言えません。それは、人間の「占い師」と似たような水準にしか到達していないからです。パーセプトロンでも、確定的に起こる現象であれば、ほぼ100パーセントの確率で、推定することは「できるはず」ですが、その精度は、単純なパーセプトロンでは、アルゴリズムによる推定に及びません。


図13-1. ニューロン・シナップスとパーセプトロン


このパーセプトロンの働きは、ある意味、人間が行っている「思考」を、本当に、機械が行っているように見えます。

上の図(図13-1)に示しているのは、パーセプトロンとその基礎となった人間の脳の、神経細胞ネットワークをモデル化した、ニューロン・シナップスのモデルを並べて比較したものです。この図で、パーセプトロンのモデルを示しているものは、有限状態機械の、状態遷移図に似ています。そして、状態遷移図は、マルコフ過程を描いた図に似ています。このパーセプトロンの図では、ニューロンが活性状態にないとき、シナップスに接続した、隣接ニューロンを活性化する接続の例も、赤い実線の接続で示されています。