人工知能 〜 機械学習は、どこまで信用できるか


提供: 有限会社 工房 知の匠

文責: 技術顧問 大場 充

更新: 2025年7月15日

あらまし

16世紀のヨーロッパでは、ドイツにおける活版印刷機の発明・普及を引き金にして、北ヨーロッパでは、知識革命が起こり、宗教改革と、農業から工業中心への産業機構の変革を伴う経済改革が起こり始めました。イギリスでは、この時、当時の社会を支配していた貴族階層を中心に、現実社会の変革を見据えた、新しい思想が生まれました。その代表的な例が、科学分野におけるベーコンが提起した、実験に基づいた実証主義の潮流でした。

経験主義と科学の発展

16世紀の末、イギリスのケンブリッジ大学に学び、法曹界で活躍し始めていた貴族のフランシス・ベーコンは、大学時代に感じていた「アリストテレスの哲学は、議論のためにしか役立たない。」と言う考えに基づき、新しい知識を生み出すための思考の方法として、「帰納法」を提唱しました。それは、人間が自然から物事の法則を学ぶとき、しばしば、「結論を認識して、その原因となる事象を分析して、因果関係を知る」と言う手順を取ることから、提案したと言われています。

中世に唯名論を主張したオクスフォード大学のオッカムや、16世紀のベーコンの帰納法が土台となり、イギリスの社会に経験主義の土台が醸成されてゆきました。17世紀に入って、オクスフォード大学のジョン・ロックが経験主義の哲学をまとめ、産業革命後の民主主義と経済学の基礎を作りました。


図7. 産業革命と科学の発展を導いた経験主義

政治哲学者でもあったジョン・ロックが提唱した経験論思想は、産業革命時代を通して、イギリス社会での思想的枠組みとなりました。それは、近代民主主義に基礎を提供し、後に、アダム・スミスの資本論の骨格となり、政治哲学の分野で、ベンサムの「多数決原理」を生み出す、原動力となりました。特に、アダム・スミスの資本論やベンサムの多数決原理では、その理論的な枠組みとなった「効用」思想が多大な影響を与えました。後で述べる数学者のチャールズ・バッベージも、ロックの労働価値説に基づく理論を構築しています。

ベーコンが提唱した帰納法によって、17世紀のイギリスでは、科学技術が大きく進歩し、ロックが提唱した経験主義哲学によって、17世紀のイギリスの社会では、民主主義と資本主義経済が著しく発展しました。例えば、多数決原理による政治的な問題の決定や、工業生産における「分業」による生産性の工場などです。これらは、イギリスで主流になりつつあったプロテスタンティズムと融合し、イギリスの経済発展に多く寄与しました。

科学の分野においては、ニュートンの物理学、社会科学の分野においては、ベンサムの功利主義、そして経済分野におけるアダム・スミスの資本主義などが、産業革命とイギリス社会の経済的な発展に大きく貢献しました。そして、産業革命で生まれた機械機構の利用技術により、19世紀の初頭には、ジャガード織機の機構を応用した、バッベージの考える機械までもが、生まれました。