人工知能 〜 機械学習は、どこまで信用できるか


提供: 有限会社 工房 知の匠

文責: 技術顧問 大場 充

更新: 2025年7月16日

あらまし

18世紀の末、ドイツに大哲学者のカントが生まれ、ベーコンやロックが提唱したイギリスの経験論に反対して、プラトン的な発想で、ドイツ観念論を生み出しました。カントは、「純粋理性批判」において、数学的な空間や、物理学的な時間の概念は、人間が経験を通して獲得できるものではなく、人間が先験的に認識している、「超越した認識力」から生み出されている能力であると、主張しました。

経験を超えた認識の重要性

19世紀に、ドイツで活躍した大哲学者のカントは、イギリス社会で産業革命の原動力となった経験論に対抗して、ドイツ特有な思想の観念論を創出しました。カントは、その著書、「純粋理性批判」において、数学的な空間や物理学的な時間の概念は、人が経験を通して獲得できるものではなく、人間が先験的に認識している、「超越した認識力」から生み出されている能力に基づいていると、主張しました。日本では、それを「観念論」と呼んでいます。英語では、それはtranscendentalism(超認識主義という意味の言葉です)と呼ばれています。


図8. 経験主義哲学に対する反論

特にカントは、数学的な無限空間を例として提示し、人間が経験的に知っている空間は、全てが有限な空間であり、無限な空間ではないことを指摘しています。その有限な広がりの空間から、それを超越した「無限な空間」を発想することは、「先験的(ア・プリオリ)な知識」がなければ、不可能であると、カントは主張しています。人間は、同じように、「一神教の神」の概念も、超認識から得たものに違いないと主張しています。「一神教の神」とは、ゾロアスター教を唱えた、ツアラツストラが語っている、「抽象的な神」の概念を言っています。これらは、人間が、その進化の過程で、偶然に得た、具体的な例を出発点として、それを抽象化して得られる概念です。

このカントの思考は、プラトンが唱えた「イデア論」や、中世のアキュナスが唱えた、「実在論」などと、共通した考え方を基礎としたものであると言えます。その意味では、アリストテレスが指摘した、人間の抽象的な思考に潜む、「架空な対象」に関する危険性が隠れています。カントは、後世のフッサールが主張したような、客観的な事実と、主観的な認識に決定的な違いがあることを認識していたのかも知れません。

その意味では、カントの超認識を前提とした議論は、「なぜ、人間は、無限な広がりを持つ空間や、永遠に続く時間、そして抽象的な「一神教の神」を考えたのか」を説明しようとした理論であり、20世紀のドイツの哲学が、人間の認識に焦点を当てて、議論を展開する基礎を作ったと言えるでしょう。