提供: 有限会社 工房 知の匠
文責: 技術顧問 大場 充
更新: 2025年8月13日
人類の社会で、人間活動の様々な場面において、コンピュータの利用が一般的になり、特に、スマートフォンの開発と普及によって、人々は、いつでも、どこでも、他の人々とつながり、情報や意見の交換を、誰とでもできるようになりました。さらに、インターネット上のソーシャル・ネットワーク・サービスの普及が進み、人々は、何時も、どこにいても、誰とでも、インターネットを経由して他人とつながり、意見や感想を、見ず知らずの人々とでも、交換し、共有することができるようになりました。
さらに、ソーシャル・ネットワーク・サービスでは、個々のユーザが過去に閲覧した、他人の投稿を分析して、そのユーザの興味のありそうな話題を、その閲覧時に指定した検索を頼りに、キーワードから連想される文章を、ネッワーク上の記事から探し出し、そのユーザに対して、記事の閲覧を推薦するようになっています。これは、単純に検索キーワードの照合だけにとどまらず、過去に閲覧した記事の内容を、人工知能の機能を応用して分析し、どの記事を推薦すべきかを検討するようになっています。つまり、その人が興味を持つと考えられる記事は、インターネット上のサーバで検索して、ユーザのスマートフォンの画面に、自動的に表示します。このことによって、特定のユーザに限定すれば、その人に配信される記事は、その人の興味がある内容を含むものが中心になります。
このような、情報配信のサービスにおける個人化サービスは、機械学習の技術を利用することで、より精度を高め、より顧客にとって満足がゆくように、改善が続けられています。逆に言えば、特定のユーザが、過去に興味を示さなかった問題や内容に関する記事は、そのユーザのスマートフォンでは、あたかもネッワーク上には存在していないかのように見えるわけです。この情報推薦の個人化は、ソーシャル・ネットワーク・サービスの運営が、私企業で実施されており、そのサービスの運用に必要な諸費用を、スポンサーからの広告収入に頼っていることから、ユーザの閲覧数を増加させることが、そのサービスを提供している企業にとっては、死活問題になっている重要な問題だからです。
さらに、特定の情報(記事)をネットワーク上に公開しているユーザにとっても、数多くのユーザに閲覧される記事については、サービスを提供している事業者から、広告収入の一部が、記事の提供者に支払われる契約になっており、この広告収入を、生活のための重要な収入源にしている人々も少なくありません。このような事情もあるため、個々の記事を公開するユーザは、その内容に対して、なるべく多くの、不特定多数の人々の興味を集められるように、中身の表現を編集するようになっています。この読者の数を増やそうとする意図から、記事の内容は、その表現の正確さよりも、その表現が人々の興味を捉えられるかどうかが重要になります。このことが、しばしば、ソーシャル・ネットワーク・サービスで提供される情報の正確性や内容の表現が妥当でない事例が、散見される原因になっています。
ソーシャル・ネットワーク・サービスで提供される情報の真偽については、特に、その「内容に誤りがある」情報について、その正しさの検証が問題にされています。この「正しさの検証」も、機械学習などの人工知能技術を応用することで、コンピュータを利用して実行することは可能です。しかし、そのような「正しさの検証」を行い、公開される「情報の正しさ」の質を向上させることは、社会的には意味があっても、ソーシャル・ネットワーク・サービスを運営する事業者にとっては、大多数のユーザの目から見た、「記事の魅力」をそぎ落とし、広告収入を減らすようにしか作用しません。また、コンピュータを運転して、そのような記事の内容を正確にするための処理をするため、より多くのコンピュータを導入し、より多くの電力を消費しなければなりません。それは、私企業の「利益追求の原則」から見ても、記事の「正しさの検証」が、事業者にとっては、それに積極的に取り組む必然性が認められないのです。
このため、ソーシャル・ネットワーク・サービス事業においては、ユーザによって提供される個々の記事の「正しさの検証」は、国家などの公的な機関による統制や監視がなければ、有効な対策が取られることはありません。特に、国家などの公的な機関による統制は、ソーシャル・ネットワーク・サービスを経由して流布された情報が、個人のプライパシーを犯した場合、その個人の社会的な活動に支障を生じる場合、その個人の私的な財産の維持に支障を与える場合、そして、その個人の名誉を著しく傷つける場合などを除き、公的な秩序の維持のために、過剰に権力を行使することは、公的な組織にとって、容易ではありません。むしろ、情報提供者の自由な権利を拘束すると言う視点で、法的な問題を引き起こす可能性もあります。
すでに議論したように、コンピュータによる自然言語表現の解析技術は、現時点では、それほど高い水準にはありません。特に、自然言語の意味を確定するための、文脈の解析、言葉の内包の意味の把握などについては、研究の進展が遅く、効率的な解析のコンピュータ化を実現するには至っていません。それでも、一般的な場面での自然言語表現の理解と、自然言語でのコンピュータの応答などについては、大きな問題を発生させずに、簡便な方法を使うことで、利用することは可能になっています。これは、言葉を話し始めた子供が、その内容を深く考えていなくても、一見、「つじつまの合う」やり取りをすることができることと、似ているからです。